学会賞

平成27年度 学術賞

受賞者
京都大学防災研究所 矢守 克也 氏
研究題目
「津波てんでんこ」の4つの意味
掲載誌
自然災害科学、Vol.31、No.1、2012、pp.35-46
受賞理由

本研究は、「津波てんでんこ」が、1)緊急時(津波襲来時)には他者のことは気にかけずに一刻も早く高所へ移動して身の安全を確保することの重要性を伝えること、2)率先避難は他者の避難をも促進するものであること、3)自立避難行動についての事前の相互信頼醸成を意図していること、4)事後に避難して生き延びた者が逃げ遅れて命を落としてしまった者に対して抱く自責の念を低減し、事後の心の復興に寄与するものでもあること、の4つの意味があることを事例を挙げて分かりやすく解説し、この言葉の意味が矛盾や葛藤、対立や自責の念が付きまとう津波避難を象徴する言葉であることを示すとともに、総合的なリスクマネジメントの重要性を意識させるものとなっていることを様々な既往研究成果や自らの調査研究成果に基づく論証によって明らかにしている。特に第4の意味は著者の新しい独創的な考え方であり、新規性が認められる。このような整理は今後の防災教育、防災訓練、防災対策に明確な方向性を与えるものであり、自治体等で具体的に防災対策に関わっている人達や、個々人ならびに各々のコミュニティーが、万一の津波に際していかに人命を守るかを検討する上で示唆する所が大であり、学術的にも高く評価されるものである。

以上の理由から、本研究論文は平成27年度日本自然災害学会「学術賞」に値すると評価された。

受賞者
人と防災未来センター 照本 清峰 氏
研究題目
地震発生後の孤立地域にみられる対応課題の検討
および
2011年台風12号災害における孤立地域の被災状況と対応状況の諸相
掲載誌
自然災害科学、Vol.31、No.1、2012、pp.59-76
自然災害科学、Vol.33、No.3、2014、pp.249-270
受賞理由

これまで、中山間地域等の孤立地域・孤立集落への支援体制に係る調査は数多く実施されてきたが、孤立地域内に生じていた問題とその対応については体系的に問題を十分把握できていない状況であった。照本氏らの2編の論文では、丹念に孤立地域の調査を実施し、孤立地域内に生じた対応課題と問題を項目別に整理して類型化するとともに孤立集落に生じる問題の実態を定量的に把握することによって構造化しており、災害発生後の中山間地域の孤立地域・孤立集落の問題構造解明に取り組んでいる。また、分析結果を基にして、孤立地域の問題における予防的な対策のあり方、災害発生後の対応に関する優先順位のあり方にまで言及しており、これらの成果は孤立集落対策の推進に寄与するものと評価される。孤立地域・孤立集落の問題は、近い将来必ず発生すると予測されている南海トラフ地震等における広域巨大災害での最重要課題の一つであり、これらの研究は時宜を得たものと言え、防災上寄与する所が大であり、学術的にも高く評価されるものである。

以上の理由から、本研究論文は平成27年度日本自然災害学会「学術賞」に値すると評価された。

学術奨励賞

平成27年度 学術奨励賞

受賞者
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻博士後期課程 澤田 茉伊 氏
研究題目
地盤工学に基づく降雨時の古墳墳丘斜面の安定性評価に関する検討
掲載誌
自然災害科学,Vol.33,特別号,2014,pp.87-99
受賞理由

本研究は、盛土構造物である特別史跡「牽牛子塚古墳」が降雨によって表層破壊を起こしたメカニズムを地盤工学的に解明したものである。試料採取や原位置試験における強い制約の中で実質非破壊の原位置強度試験の適用,発掘によって削られた墳丘土を用いた精密な不飽和土質試験を実施することによって土質定数を正確に求め,浸透流解析と安定解析を実施することにより,力学的背景の明確な破壊機構を明らかにした点が高く評価される。本研究で得られた知見は,当該古墳の修復と復元に重要な情報を与えるとともに,従来考古学に任されてきたこの分野の問題に土木工学的なアプローチが不可欠であることを示したという点で高く評価されるものである。

以上の理由から,本研究論文は平成27年度日本自然災害学会「学術奨励賞」に値すると評価された。

受賞者
東北大学災害科学国際研究所 今井 健太郎 氏
研究題目
人的・物的被害軽減に向けた実用的な津波ハザード・被害予測評価方法の提案
掲載誌
自然災害科学,Vol.33,特別号,2014,pp.1-12
受賞理由

行政や自治体が作成・公表している津波ハザードマップは,津波浸水深の分布や浸水域,津波到達時間を示すにとどまっているのが現状である.こうした津波ハザード情報の意味合いは,情報の受け取り手によって様々であるため,従来の津波ハザードマップは危険性を認識するための情報とはなっても,危険性を回避するための行動を促す情報にはなり得ていなかったように思われる.著者らは,多義的な性格を持つハザードではなく,潜在的な被害の可能性を明示することの方が,より個々の防災行動に寄与するとの立場に立ち,津波被害予測マップとその作成手続きを提案している.著者らの提案する津波ハザード・被害予測マップが,情報の受け取り手である行政や住民にとってどのように評価されるものなのか,マップ導入によってどの程度の減災効果が見込まれるのかなど,今後の検証が望まれる点は残されているものの,被害予測マップの考え方は災害対応を促すための情報に新しい視点を提供するものであり,学術的にも高く評価されるものである。

以上の理由から,本研究論文は平成27年度日本自然災害学会「学術奨励賞」に値すると評価された。

受賞者
国立研究開発法人 国立環境研究所 多島 良 氏
研究題目
災害廃棄物処理に求められる自治体機能に関する研究 -東日本大震災における業務の体系化を通じて-
掲載誌
自然災害科学,Vol.33,特別号,2014,pp.153-163
受賞理由

本研究は、東日本大震災において実際に行われた災害廃棄物処理業務を体系化することで、災害廃棄物処理に求められる機能を明らかにしている。体系化に当たっては、米国の標準的危機対応システムIncident Command System(ICS)を採用し、災害廃棄物処理に関わる業務や機能をマネジメントの観点を含めて整理している。ICSの5機能についてそれぞれ3階層からなる災害廃棄物処理の機能体系を具体的に明示した点で高く評価される。現在、国の災害廃棄物対策指針を受けて全国の自治体で災害廃棄物処理計画が策定されることを考えると、災害廃棄物処理に係る業務や機能を体系的に整理することへの社会的要請は大きいと云える。本研究成果はこのような点で意義が大きいだけでなく,学術的にも高く評価されるものである。

以上の理由から,本研究論文は平成27年度日本自然災害学会「学術奨励賞」に値すると評価された。


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